インタビュー すべての犬に温かいお家を

インタビュー「すべての犬に温かいお家を」vol.6

人と犬が、ともに幸せに暮らせるようになるために 犬の譲渡会はとても重要、でも譲渡会をなくすことがもっと重要です。

内田佳子さん 酪農学園大学 獣医学部 獣医学科 准教授

1頭でも多くの犬を幸せにするための活動である犬の譲渡会はとても重要な活動です。しかしもっと重要なのは、そもそも譲渡犬をなくすことです。家庭犬の問題行動治療に取り組んでいる内田佳子先生に、譲渡犬をなくすために私たち"人"が注意すべきポイントなどを伺いました。

飼育放棄などの背景にある問題行動を理解する

私たちが取り組んでいる問題行動治療というのは、飼い主さんなど"人"にとって困るような動物の行動(問題行動)の頻度を少なくしたり、程度を軽減したりするというものです。具体的な問題行動とは、「人を噛む」ということや、「無駄吠えが多い」、「室内のあちこちでオシッコをしてしまう」などが挙げられます。近年、問題になっている飼育放棄に至る原因のひとつに、こうした問題行動があるわけです。では、どうしてこのような問題行動が起こるのかといえば、多くの場合、社会化が不十分なために、不安感や恐怖心、警戒心など過度のストレスを抱えてしまうことが原因であったりするのですが、それだけではありません。もうひとつの大きな要因としてマッチングのミスということもあります。

ある犬にとってはごく当たり前の行動が、その行動を嫌がる飼い主にとっては問題行動として捉えられてしまうということです。こうしたケースの場合は、犬自体の行動が問題であるというよりも、そもそもそうした行動を当たり前に行う犬と、それを嫌う飼い主が一緒に暮らしていること自体が問題なのであり、つまりはマッチングのミスといえるのです。

マッチングの重要性をしっかりと認識する

ひとくちに犬といってもさまざまな犬種があり、その犬種ごとに行動特性や性格などが異なります。そしてさらに、個々の犬の個体差、つまりの個性というものもあります。たとえば、犬を飼うにあたって、室内でいつもおとなしくしている犬がいいと思っている飼い主の方が、活動的でお散歩などが大好きな犬を飼ってしまったとします。飼い主はあまりお散歩などには行きたくないから行かない。すると犬は室内で飛び回る。そうすると、飼い主にとって、それは問題行動になってしまうわけです。室内でおとなしく接することのできる犬が好きな人は、そういう犬を飼うべきなのです。つまり、最初のマッチングを間違わないことが、人にとっても飼われる犬にとっても、幸せに暮らすためのポイントとなります。マッチングの重要性は、ペットショップで犬を選ぶ場合でも、譲渡犬を選ぶ場合でも同じです。単に「見た目がかわいいから」とか、「譲渡会で見た犬がかわそうだから」といった理由で安易に飼うのは、犬にとっても人にとっても不幸な結果を招く危険性があると思います。これから犬を飼おうという方は、マッチングの重要性をしっかりと認識し、かつ犬を育てることの責任感を持っていただきたいですね。

譲渡犬のいない社会こそ、人と犬の理想の社会

マッチングのミスを起こさないためには、まず「自分はどんな犬と暮らしたいのか」「自分にとって理想となる犬との関係性はどういうものか」ということをしっかりとイメージすることが大切です。理想像がしっかりとイメージできたら、その理想にふさわしい犬種などを選び、かつ育てていく過程でより理想に近い関係性を構築するためにしつけや育て方に配慮する努力も必要となります。もちろん、犬に対して多くを求めすぎないことも大切です。そうやって犬と接していく中で、お互いが信頼感を持てるようになれば、人と犬は幸せに暮らせます。幸せに暮らしていれば、飼育放棄などの問題も発生しませんし、そうなれば犬の譲渡などの制度も不要になるでしょう。譲渡会を通じて、1頭でも多くの犬を幸せにすることはとても尊い活動です。不幸にして譲渡犬が発生してしまう現状においては、より多くの方にもっと譲渡会の実態などを知っていただき、譲渡会が普及することを願っています。

しかし、それは過渡的な対応でなければならないと思います。私たち人間が犬との理想の関係性をしっかりと考え、人と犬がずっと幸せに暮らせるようになれば、譲渡犬はどんどん少なくなるはずです。私たちが最終的に目指すべき理想の社会とは、譲渡犬のいない社会だと思っています。

内田佳子(うちだ・よしこ)

酪農学園大学 獣医学部 獣医学科 准教授。
USAタフツ大学、コーネル大学・ペンシルバニア大学の行動治療科にて問題行動治療を学ぶ。
1997年、酪農学園大学にて行動治療科としつけ教室を立ち上げ現在にいたる。趣味は愛犬との高齢者施設への訪問活動。

インタビュー「すべての犬に温かいお家を」
  • vol.1 犬のしつけと譲渡会について知ってください 山口千津子さん 『(社)日本動物福祉協会』調査員/獣医師
  • vol.2 犬と人とが対等な関係にある「明るい動物愛護」 山崎恵子さん ペット研究会『互』主催/ペット問題研究家
  • vol.3 人と犬の幸せな生活のためには、「犬の社会化」が大切 川野なおこさん 犬のがっこうエコール/ドッグトレーナー
  • vol.4 「譲渡」で犬に、温かいご家庭とのご縁を 北村美代子さん (社)日本動物福祉協会『CCクロ』スタッフ
  • vol.5 愛犬の安全と安心を意識する 水越美奈さん 日本獣医生命科学大学 講師
  • vol.6 Coming Soon 内田佳子さん 酪農学園大学 獣医学部 獣医学科 准教授

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