「幸せな犬」とは一体どんな犬なのでしょう?愛犬と飼い主さんがハッピーに暮らすために心がけたいことを、獣医師の水越美奈先生に伺いました。
「幸せな犬」は、安心と安全がキーワードです。飼い主さんや家族のそばにいれば、愛犬が安心して、安全に過ごせることが大切です。また、犬が安心してぐっすりと眠れて、安全に、ゆっくりと休息できる場所が確保されていることと、犬がおいしくいただける安全な食料や、新鮮なお水が必要です。犬は食べ物を選べませんから、飼い主が犬の年齢や運動量、健康状態に合ったフードを食べさせてあげましょう。犬が飼い主に対して攻撃的になる理由の多くに、飼い主に対する「混乱」があります。例えば、人が食事中に愛犬が食べ物をおねだりしたとしましょう。お母さんは「ダメ!」と言うのにお父さんは喜んで食べ物を分けてくれるなど、家族によって言うことが違ったら犬は混乱してしまいます。愛犬に守ってもらう人間社会のルールを決めたら、家族全員でいつもそのルールを守るようにしてください。
犬に安心して過ごしてもらうためには、ストレスをためさせないことも重要です。どの犬にも「作業欲求」や「運動欲求」がありますから、「犬用のオモチャで遊んであげる」「毎日お散歩をする」などして、この欲求を満たしてあげてください。「うちのワンちゃんは小型犬だから」「うちの子はシニアだから」といって、お散歩に出ないのはよくありません。お散歩は、運動面からはもちろん、愛犬の気分転換のためにも欠かせないものです。野生の犬は、食べ物となる獲物を見つけて追跡し、狩りをするという重要な仕事がありましたが、現代の家庭犬は飼い主が定期的にご飯を食べさせてくれます。家庭犬はとても暇なのに、自分からは何もすることができないのです。シニアになり、自立歩行が困難になった愛犬でも、飼い主さんが抱っこをして外へ連れて行き、外を見せたり、匂いを嗅がせたり、話しかけてあげたりするだけでとてもいい気分転換になります。 また、苦手なものに対してはどういうことが苦手かを注意深く見てあげて、無理に慣らす必要がない場合は避けてあげるのもひとつの方法です。例えば、「黒い犬が苦手」というように、犬が苦手とする対象がはっきりしている場合は、飼い主さんが避けるようにしてあげればいいことです。無理矢理に仲良くさせねばと頑張ることはありません。
私たちだって、苦手なタイプの人っていますよね(笑)。愛犬に「100%いい子であること」を求めないということも、愛犬と私たちの幸せな生活には必要なことです。お互いに100%を求める家族って、窮屈じゃないですか(笑)。ともにいると安心して、くつろげる。安全に過ごせる。そんな生活が、愛犬にも、家族にも理想的ですね。
日本獣医畜産大学卒業。獣医師。博士(獣医学)。日本獣医生命科学大学獣医学部講師。動物病院に6年間勤務後、行動治療を学ぶために渡米。渡米中にサンフランシスコSPCAなどの愛護団体でのボランティアも経験。帰国後、行動専門クリニックを開業ののち2007年より現職。付属動物医療センターでは行動治療科を担当する。犬・猫の行動やしつけに関する講演も多数行う。