犬の「問題行動」に悩まされ、愛犬を手放す飼い主さんが後を絶ちません。「飼い主さんは、愛犬にしっかりとしつけをする責任があります」とおっしゃる川野なおこ先生に、しつけの目的や注意点などを伺いました。
犬と人は同じ生き物ではありません。習性が違えば、物事をとらえる感覚や、生きていく上でのルールなどもまるで違います。本来違う世界で生きる犬と人が、ともに快適に、幸せに暮らすための手段がしつけだと考えてください。しつけで最も重要なのが、人間社会を愛犬に教える「犬の社会化」です。飼い主さんは、愛犬を人間社会にできるだけ慣らして、人間社会で暮らす上での最低限のルールを教えなければなりません。犬と人がともに、ハッピーに暮らしていくために不可欠な要素が社会化です。
社会化が不十分な犬は、自分以外の人や犬に出会ったときの接し方がわからず、極度の不安感や恐怖心、警戒心などを抱く可能性があります。不安感ゆえに、愛犬がほかの人や犬に吠えたり、噛んだりするなどの攻撃行動をしてしまうこともあるのです。また、人間社会のルールを知らないまま成長した犬は、「人のルール」ではなく、本能的な「犬のルール」に従って行動します。その結果、玄関のチャイムに激しく吠えたり、食卓に飛び乗って食べ物を盗み食いしたり、散歩中、リードをつねに引っ張って好きな方向に歩いたり、気に入らない人や犬を攻撃したりする「問題行動」を起こします。これでは、人と愛犬とのハッピーな生活は望めません。愛犬との暮らしを楽しむためにも、飼い主さんには社会化を含めた愛犬のしつけをしっかり行なっていただきたいと思います。
犬の社会化を行なうときは、世の中にあふれるさまざまな音やにおい、感触などを愛犬に経験させ、なじませてあげてください。また、毎日のお散歩などを通じて、たくさんの人や犬、動物などにも慣らしましょう。犬の性格形成に大きな影響を与える「犬の社会化期」は、生後2ヶ月~5ヶ月ぐらいです。この時期に社会化のトレーニングをすると、覚えるのが早いですから飼い主さんも楽です。ここで、「うちの犬はもう成犬だから無理」とは思わないでください。子犬のときよりも時間はかかりますが、基本的には犬は何歳になっても社会化のトレーニングができます。また、社会化は決してあせらず、気長に行なうことが重要です。犬にいきなりたくさんの物事を経験させるのではなく、ゆっくり、徐々に、犬が人間社会で慣れ親しめる世界を広げてあげるといいでしょう。
犬に人間社会のルールを教えるときは、「人にとって好ましいことをしたときにほめる」ことを心がけてください。犬は行動の直後に自分にとっていいことが起きると、再びその行動を繰り返そうとする習性があります。犬にルールを教えたいときは、この習性を利用すればスムーズです。
例えば、愛犬の無駄吠えに悩む飼い主さんは、犬が吠えているときに叱るのではなく、犬がおとなしくしているタイミングを見つけて、その瞬間にオヤツなどを与えてほめてください。また、散歩中に犬がリードを引っ張って困るという飼い主さんは、犬が引っ張る時に叱るのではなく、犬が自分の横をおとなしく歩いているときに、オヤツなどを与えてほめてください。犬に「何をするとほめられ、ごほうびのオヤツがもらえるのか」を自発的に考えさせ、実行させるよう心がけましょう。 最初は時間がかかるかもしれませんが、根気よく教えれば犬は必ず応えてくれます。社会化やしつけができた犬は、飼い主さんに至福の時を与えてくれるでしょう。
しつけインストラクター。アメリカ・カリフォルニア州の訓練所にて、ドッグトレーナー・ライセンスを取得。
ドッグスクール「犬のがっこうエコール」を経営。雑誌やテレビの取材や出演、またイベント講師などの仕事も多数。